新型コロナウイルス感染症の影響から、テレワークが注目されていますが、テレワークの導入に関しては、それ以前から導入が推奨されています。
テレワークに関する法律があるわけではありませんが、平成29年3月28日の働き方改革実現会議決定における「働き方改革実行計画」の「柔軟な働き方がしやすい環境整備」の項目において、テレワーク普及の重要性に言及し、ガイドライン制定など実効性のある政策手段を講じて普及を加速させていくことが挙げられています。この中で、テレワークは、時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、介護と仕事の両立の手段となり、多様な人材の能力発揮が可能となるとして推奨されているところです。
そして、平成30年2月22日、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」が策定され、今日にいたるまで、テレワークの普及が進められています。
雇用型テレワークとは、事業者と雇用契約を結んだ労働者が自宅等で働くテレワーク
在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務などの実際の労働形態を決めましょう。
(1)労働条件等に関する制度
在宅勤務、サテライトオフィス勤務、モバイル勤務などの実際の労働形態を決めましょう。
労働時間に関する制度、フレックスタイム制、事業場外みなし労働時間制など・・・
(2)労働安全衛生等に関する制度
健康診断、ストレスチェック、作業環境整備など
(3)実施に関する特有の制度
通信費・情報通信機器等のテレワークに要する費用負担の取扱、社内教育制度など
(1)労働者過半数代表等からの意見聴取
(2)就業規則変更の周知
テレワークを導入するに当たっては、様々な側面から注意をする必要があります。注意をしておいた方が良い点について法的な側面からみていきましょう。
テレワークであっても雇用契約上の労働者になりますので、就業場所、賃金等その他労働条件等を明示しなければなりません(労基法15条)。特に労働契約期間、更新の基準、就業場所、業務内容、労働時間、賃金及び退職に関する事項については書面等で明示しなければなりません(労基則5条4項)。書面等にはファクシミリや電子メールも含まれます。
テレワーク導入でポイントとなる労働条件は、主に就業場所、労働時間、業務内容です。
まず、就業場所については、在宅のみならずサテライトオフィスでの勤務ということも考えられます。いずれにしても、場所をきちんと明示しましょう。就業場所は、テレワークの作業環境整備とも関連するため、きちんと設定する必要があります。
テレワークの場合、労働者が生活スタイルに合わせて就業できるというメリットがあります。このメリットを十分に活用するとなれば、労働者に任せる、労働者の裁量で判断させるというのが良いという点もあります。
しかし、他方で、会社としては労働時間を管理しなければなりません。時間外労働となる場合には割増賃金(いわゆる残業代)を支給する必要がありますし、長時間労働を強いる結果になってしまっては安全配慮義務に違反するという結果にもなりかねません。
そのため、まずは、勤怠管理をどのようにするかを検討する必要があります。メールの送付時間を限定する、システムのアクセス時間を限定するなどの方法も考えられます。フレックスタイム制(※1)や事業場外みなし労働時間制(※2)の導入を検討することも有益です。
また、中抜け時間や休憩時間の取扱についてもきちんと定めておく必要があります。労働者のライフスタイルに合わせて始業時刻、就業時刻又は休憩時間で調整するなどしても良いでしょう。他方で、通勤時間や出張旅行中の移動時間中にテレワークをすることもあります。この場合も使用者の明示または黙示の指揮命令下で行われるものであれば労働時間に該当しますので、きちんと管理しておく必要があります。上記のとおり、テレワークの場合には、労働時間の管理が難しくなることは否めません。会社としては、労働時間を管理し、長時間労働を避ける方策が重要になります。
労働者が単位期間の中で一定時間数労働することを条件として、1日の始業・就業時刻を労働者の自由な決定に委ねる制度(労働基準法32条の3)
労働者が労働時間の全部または一部について事業場施設外で業務に従事する場合、使用者の具体的指揮監督が及ばず、実労働時間を算定するのが物理的に困難で有る場合に、所定労働時間又は通常必要時間を労働したものとみなす制度(労基法38条の2)
業務内容は、業績評価にも繋がる重要なものとなります。特にテレワークの場合には、作業環境に一人しかいないことが多いため、労働者に効率良く作業をしてもらうためにも、より具体的な業務内容の明示が必要になるでしょう。
また、テレワークでの業績評価は難しい側面もあります。労働者のモチベーションを挙げるためにも、売上等だけに着目するのではなく、フィードバックや対話を通じ、企業一丸となって業績向上できるような評価制度の新たな構築も必要になってくるでしょう。
会社は、労働者が生命・心身の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をすべき義務を負っています(労契法5条)。
具体的には、健康診断を受診させ結果を受けた措置を講じる、面談を定期的に行う、必要に応じて産業医への情報提供を行う、ストレスチェックを行い結果を受けた措置を講じるなど、労働者の健康確保を図る対策を構築するなどが考えられます。これらは、テレワークの場合だけに要請されるものではありませんが、特に、テレワークでは一人で作業することが多いため、過重労働対策やメンタルヘルス対策が重要になってきます。
また、テレワークの場合には、自宅で作業することが多く想定されます。会社での作業と異なり労働者の健康障害の予防や、情報機器使用に際しての教育などを踏まえた作業環境の整備も重要になりますので、注意が必要です。作業環境を整えるに際しては、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月12日付基発0712代3号)を参考にすると良いでしょう。
テレワーク制度の導入に伴い、業務内容や業績評価制度の見直しは必要になりますが、そのほかにも通信費、情報通信機器等のテレワークに要する費用負担の取扱や社内教育制度についても制度を見直す必要があります。
例えば、自宅で行う場合などでは、一定の金額を会社側で支給するものの、その余に生じた光熱費等については全て労働者負担となるなど、労使間で十分に話し合って定める必要があります。
また、社内教育についても、テレワークでは、一人で仕事をすることが増えるため、OJT教育が難しい状況にあります。労働者が不安にならないよう、研修や社内教育制度などを見直し、新たな制度として構築する必要があるでしょう。
上記のようにテレワーク制度を導入するについては労働条件、業務内容その他必要となる制度構築など、今までとは異なる制度を導入する必要があります。
制度の導入については、就業規則を変更することになるでしょう。この場合、変更にあたっては労働者の過半数代表者等の意見を聴取する必要があります。法律上は、意見を聴くことだけが義務づけられており、合意や協議は求められていません(労基法90条)。
しかしながら、労働者に不利益な変更は禁止されています(労契法9条)し、会社側での勝手な一方的変更を押しつける形になっては、労働者のモチベーションは低下するのは当然です。
業務の向上を図るために導入するテレワーク制度ですから、その内容について労使間できちんと協議し、合意した上で導入するのが望ましいといえます。
なお、就業規則を変更した場合は、労働者に周知することも義務づけられています(労契法10条)。労働者が閲覧できる環境を整備することも必要になりますので、忘れないようにしましょう。